教員に残業代が出ない理由は?減らない残業時間の実態も元教師が解説
教員の仕事はいくらたくさん働いても給料が上がることはありません。
定められた給与が勤務年数に合わせて決まっているからですね。では、定時で出勤して、定時で帰ればよいかというと、それができない実態があります。
この記事では、多忙を極める教師になぜ残業の手当がつかないのか?残業時間はいったいどれくらいなのか?など、教員の残業について解説していきます。
教師に残業代が出ない理由
教員の仕事はイレギュラーなことが多いので、勤務時間はあってないようなものです。
朝早く出勤する先生も多いですし、学校が閉まってからも居残りをして深夜まで仕事をする先生も多いです。
土日になれば、公務員は休めると思っている方も多いようですが、教員は部活動があります。
では、それだけブラック企業並みに働いている教員に残業代が出ているのかというと、答えは「No」です。
その理由、仕組みを解説していきましょう。
残業代の代わりに給与月額の4%(教職調整額)が支給される
教員には残業代が支払われない代わりに、教職調整額という手当があります。
『公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法』いわゆる『給特法』の中で規定されています。
第三条 教育職員(校長、副校長及び教頭を除く。以下この条において同じ。)には、その者の給料月額の百分の四に相当する額を基準として、条例で定めるところにより、教職調整額を支給しなければならない。
『公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法』
つまり、「給与月額の4%が毎月、残業代の代わりとして支払われますよ」ということです。
「じゃぁ、いいじゃん」と思っちゃいますよね?
でも、4%ということは、月給30万円だとしたら、
300,000 × 0.04 = 12,000
たったの12,000円ですよ!
実際、一日3時間~3時間半くらい残業している教員が小学校、中学校には多いようですので、月60時間としましょう(かなり控えめに見積もってですよ)。
そしたら、教員の残業代は時給にすると、たったの200円くらいということになります。
教職調整額4%という名目で、教員がいかに割に合わない時間外労働をさせられているか、おわかりいただけたでしょうか?
教員は原則、時間外勤務手当は支給されない
給特法では、次のようなことも定められています。
第三条 2 教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない。
『公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法』
つまり、「教員は残業代はもらえませんよ」ということですね。
これを聞くと、
「教員は時間外勤務手当、もらえないの?休日の部活動の手当もらってるんじゃないの?」
と思った方は多いのではないでしょうか?
それについて、法令を参考に解説していきます。
そもそも教員は時間外勤務を命じられない
以下は、文部科学省の中央教育審議会の学校における働き方改革特別部会の資料の抜粋です。
3.時間外勤務命令について
学校における働き方改革特別部会の資料より
公立学校の教育公務員は、正規の勤務時間の割振りを適正に行い、原則と
して、時間外勤務は命じないものとしており、正規の勤務時間を超えて勤
務させる場合は、「政令で定める基準に従い条例で定める場合に限るものと
する」とされている。(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関す
る特別措置法第5条及び第6条)
したがって、公立の教育公務員に時間外勤務を命ずる場合は、以下に掲げ
る公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させ
る場合等の基準を定める政令で定められている業務(いわゆる「超勤4項
目」)に従事する場合であって臨時又は緊急のやむを得ない必要があるとき
に限られる。
また、時間外勤務を行うにあたっては、健康及び福祉を害さないように考
慮しなければならない。
わかりやすく言えば、
「超勤4項目以外で、教員が時間外勤務を命じられることは原則ありません」
ということですね。
そして、その「超勤4項目」というものが以下のものになります。
<公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させ
学校における働き方改革特別部会の資料より
る場合等の基準を定める政令で定められている業務>
① 校外実習その他生徒の実習に関する業務
② 修学旅行その他学校の行事に関する業務
③ 職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)
に関する業務
④ 非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務
「以上の4項目については、時間外勤務してくださいね」
「こういったことを考慮して、教職調整額4%を支給していますよ」
ということです。
では、それに該当しない部活動やその他の時間外の業務はどうなるのでしょうか?
土日の部活動は時間外勤務ではなく自発的活動とみなされる
そもそも時間外勤務を超勤4項目以外で命じることはできないわけですから、土日に部活動の指導をしたり、その他、時間外で仕事はすることは、
「自発的な活動」
とみなされるということです。つまり、本来やらなくていいことをやるのは自己責任ですよ、と言っているようなものです。
これが、教員のサービス残業を増大させてしまう要因になっているわけです。
ただ、最近は「働き方改革」が掲げられ、どう改正していくかは議論されてはいます。
小学校・中学校での残業時間は平均すると1日4時間にもなる
義務教育である小学校、中学校の先生は残業時間が多いようです。児童、生徒とともに行動する時間が大半を占めますので、空き時間が少なく、授業の準備や、提出物の確認など、勤務時間外労働になりがちです。
また、自宅に持ち帰っての仕事量も数字として表れませんが、かなり多いと考えられます。
教員の残業の実態をデータで見てみる
下の表は教諭の一日の勤務時間です。このデータには持ち帰り残業の時間は含まれていません。
データよりわかることをあげてみます。
- 小学校、中学校ともにここ10年で、残業時間は増えている
- 一日当たりの定時の勤務時間を8時間とすると、1日3時間半程度の残業をしていることになる
- 平日は、1か月の勤務日を22日とすると、1か月に77時間の残業をしていることになる
- 土日は、1か月に8日あるとすると、小学校で8時間、中学校で24時間程度の残業をしていることになる
- つまり、小学校と中学校で多少の開きがあるが、平均的に見ると、1か月に90時間程度の残業をしているということになる
いかに教職調整額の4%が割に合わないかがわかりますね。
教師の残業時間は持ち帰り残業を考慮すれば月100時間を超える
上記のデータは、あくまで学校内での勤務時間外労働です。
実際には、子育て、家事に追われ、持ち帰り残業をせざるを得ない状況の教員もいますので、実質1か月に100時間のサービス残業をしている教員は少なくないはずです。
職員会議や行事が入ったり、突発的な問題などが起これば、それらに対応するのに空き時間がとられてしまいます。
そうなると、翌日の授業の準備などは持ち帰り残業になってしまう実態があるのです。
また、有給取得が半分以下という実態もあります。有給を取りたくても取れない状況があるということです。
教員はブラック企業並みであると言われるのも頷けます。
「働き方改革」「給特法の見直し」
では、政府がそれを見て見ぬふりをしているかというと、そうではありません。「働き方改革」「給特法の見直し、改正」など、何とか教員の残業時間を減らそうと策を練ってはいます。
主なものとしてを挙げておきますが、以下参考にしてみてください。
公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律の概要(資料1-1)
【一年単位の変形労働時間制の活用による休日のまとめ取り】
これは一般労働者には認められている制度ですが、現行では地方公務員には適用されていません。
それを公立学校の教育職員にも適用しようというものです。これによって、夏休みなどでの休日まとめ取りが可能になります。令和3年度から施行されます。
【超勤4項目以外の業務を「在校等時間」とし、勤務時間管理の対象とする】
「超勤4項目」以外の業務を行う時間も含め、教育職員が学校教育活動に関する業務を行っている時間として外形的に把握することができる時間を「在校等時間」とし、勤務時間管理の対象とする。
公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律の概要(資料1-1)より
具体的には、「超勤4項目」以外の業務を行う時間も含めて教育職員が在校している時間を基本とする
これまで、「超勤4項目」以外は、教員の自発的活動とされてきましたが、それ以外の業務も時間外の業務として扱いますよ、ということです。
- 1か月の時間外在校等時間について、45時間以内
- 1年間の時間外在校等時間について、360時間以内
と定めています。令和2年度から施行されています。
その他、部活動の見直しなど、教員の業務の削減に向けた対策が進められています。
実際にそれらが効力を発揮するかどうかは、もう少し期間を見なけられば、わからない部分が多いと言えるでしょう。
教師の働き方が合わないと感じるならキャリアチェンジも考える
多忙を極め、日々の業務に追われている先生方が、残業時間を減らし、勤務時間を短縮することを考えるというのは難しいのかもしれません。
しかし、そのまま過剰な時間外労働を続けても精神的にも身体的にも負担を強いられ、いつかつぶれてしまうことになりかねません。
思い切った転換も必要な時期なのかもしれません。
これまでの働き方を見直し、業務をスリム化していく必要はあります。しかし、それができないから今の現状があるとも言えます。
中には、もうすでに心の中では悲鳴をあげている方もいると思います。どうしても教員としての働き方に耐えられない、自分が壊れてしまうという状況ならば、キャリアチェンジもひとつの手段であるということは頭に入れておくべきでしょう。
取り返しがつかなくなる前に、自分の人生を最優先に考えることをおすすめします。